楕円曲線論入門の入門

この記事は,SYSKEN Advent Calendar 2018 の6日目の記事です.

ふぃらっはです.2回目の投稿になります.

今年度に入ってから,授業で数学をほそぼそと学んでいます.その関係で楕円曲線を扱う機会があったんですが,割と面白い話題だったので,概略だけでもこの記事で伝えたいと思います.ここでは,楕円曲線の面白い性質である「離散対数問題」「有理点」「Hasse の定理」について,高校数学のみを前提知識として簡単に述べてみます.

目次

  1. 定義
  2. 点の加法
  3. 離散対数問題
  4. 有理点
  5. Hasse の定理
  6. おわりに
  7. 参考文献

1. 定義

いきなり楕円曲線と言われてもわけわからんと思うので,まずは定義から入りましょう.体Kxを添加したK[x]上の非特異な(尖点や自身との交点を持たない)3次式をf(x)とします.このとき,

    \[y^2 = f(x)\]

を満たすK-有理点(座標がともにKに含まれるような点)の集合をK上の楕円曲線と呼び,E(K)と書き表します.体というのは乱暴に言うと四則演算を自由に行える集合で,とりあえずは実数とか有理数とかをイメージしてもらえればよいです.

たとえば,有理数体\mathbb{Q}上の楕円曲線の例として,y^2 = x^3 - xなどがあります.(図を見てもらえればわかりますが,「楕円」ではありません.)

2. 点の加法

さて,こうして定義された楕円曲線の各点について,加法が定義できますP, QE(K)上の点だとしましょう.ここで,P + Qを,以下のような操作で得られる点として定めます:

  1. PQを通る直線を引く.
  2. この直線は,PQ以外のもう一つの点でE(K)と交わる.この交点をR'とする.
  3. R'x軸について折り返す(y座標を-1倍する).

厳密なところは省きますが,こうして点の加法を導入することができます.P + Pを計算する場合は,二点を通る直線の代わりに,PにおけるE(K)の接線を考えればよいです.なお,単位元(実数や複素数の加法における0に相当)として,一つ新たに無限遠点Oを加える必要があります.

3. 離散対数問題

シス研チックな技術要素を入れないと怒られそうなので,ちょっとだけ技術と関係のあることを書いておきます.
さきほどP + Pについて述べましたが,このように自分自身との足し算をn回繰り返すことをnPと書くようにします.ここで,E(K)の点GQ = nGなる点Qが与えられたとき,nはいくつか求めよ,という問題が出てきます.この問題を楕円曲線の離散対数問題といい,計算が困難であることが知られています.これを応用した暗号が楕円曲線暗号であり,いろんなところで使われています.

4. 有理点

ところで,あるKについて,E(K)K-有理点を持っているのかいないのか,持っているとすればどのくらい持っているのかについて調べることは有益です.たとえば,E(\mathbb{R})\mathbb{R}-有理点を無数に持っていることは明らかにわかります.しかしながら,E(\mathbb{Q})についてはほとんどわかっていません.すなわち,ある楕円曲線について,それが有理点(\mathbb{Q}-有理点のことです)をいくつ持っているのかについて判定することはできないとされています.

しかしながら,いくつかの楕円曲線については,有理点の情報が判明しています.たとえば,Fermat が考えていたy^2 = x^3 - xについては,非自明な有理点が存在しないことが知られています.
実は,この楕円曲線y^2 = x^3 - xを考えることは,Fermat の大定理について考えることにつながります.少し詳細に述べてみましょう.
Fermat の大定理は,よく知られている通り,

    \[x^n + y^n = z^n\]

の自然数解が,n > 2の場合存在しないことを主張しています.さて,いまn = 4とすると,

    \[x^4 + y^4 = z^4\]

であり,

    \[y^4 = z^4 - x^4\]

と変形できます.両辺にz^2/x^6をかけることで,

    \[\frac{y^4z^2}{x^6} = \frac{z^6}{x^6} - \frac{z^2}{x^2}\]

となり,y^2z^2/x^3 = Y, z^2/x^2 = Xとおくことで,

    \[Y^2 = X^3 - X\]

を得ます.したがって,もしy^2 = x^3 - x(0, 0), (0, \pm 1)以外の有理点を持っていないことを示せれば,Fermat の大定理をn = 4の場合について証明できたことになります
さて,ここでy^2 = x^3 - xが非自明な有理点を持たないことの証明をやりたいんですが,私の頭と記事の分量的に割愛します.気になる人は,参考文献[1]の1章を読んでみるといいと思います.

5. Hasse の定理

これは先に扱った楕円曲線暗号と密接な関係を持っている定理です.定理の内容へ立ち入る前に,有限体というものを導入して準備しておきましょう.
有限体というのは体(四則演算を自由に行える数学的集合)の一種で,その名の通り要素の数が有限です.もう少し具体的には,ある素数(素数のべき乗まで拡大できるんですが,ここでは省きます)pを定めて,0, 1, 2, 3, \cdots ,p-1の数のみを考えるようにします.このままだと足し算や掛け算の結果が溢れてしまうので,逐一pによる剰余を取るようにします.こうして作った体を位数(あるいは標数)pの有限体といい,\mathbb{F}_pで書きます.

さて,こうした\mathbb{F}_pの上で定義された楕円曲線の群E(\mathbb{F}_p)について,その点の数へ上からの評価を与えるのが楕円曲線の Hasse の定理です.点の数をNとしたとき,

    \[|N - (p + 1)| \le 2\sqrt{p}\]

が成り立つというのがその言明になります.つまり,点は有限体の標数に対して線形オーダで増加することがわかります.下図は,y^2 = x^3 - 4xなる楕円曲線について,pを動かしたときの\mathbb{F}_p -有理点の数- (p+1)をプロットし,その上からy = 2\sqrt{x}を描いたものです.キレイに不等式が成り立っていることが確認できると思います.

6. おわりに

楕円曲線の性質について駆け足気味に書きましたが,いかがだったでしょうか.正直,自分の文章力不足と記事の期日もあって,魅力を十分に伝えられていないと思われるのが残念です.ちょっとでも楕円曲線の理論に興味を抱かれた方は,下の参考文献を手にとって,より深く・より面白い数学を楽しんでいただければと思います.

明日は縣が記事を投稿してくれます.テーマは未定だそうですが,きっとこの記事よりは面白くて親しみやすい内容でしょう.お楽しみに.

7. 参考文献

  • [1] 加藤和也,黒川信重,斎藤毅(2005)『数論I Fermat の夢と類体論』岩波書店.
  • [2] Silverman, Joseph H,Tate John(2012)『楕円曲線論入門』(足立恒雄ほか訳)丸善出版.
  • [3] Silverman, Joseph H(2009)『The Arithmetic of Elliptic Curves』Springer.

 


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